里山まるごと学校 - 卒業設計報告会について



「集落をまるごと学校にしてはどうかという提案です」。京都工芸繊維大学で建築を学ぶ学生・鈴木のぞみさんの卒業設計報告会を3月20日の定休日に開いてもらいました。




この『里山まるごと学校-集落を横断した分散型スクールと暮らしの拠点の提案-』は、「いわゆる里山」や日本社会が抱える様々な問題の解決策がちりばめられ、一つの地区を納得がゆくまで何日もかけて調査した内容を活かしきって考え出された素晴らしい提案でした。




地域と小学校との
心理的距離が離れることは
地域にとって
良いこことだろうか



舞台は、過疎の町にある一つの集落。生活のすぐそばに山があり、田畑があり、川があり、かつては役場や銀行、保健所、栄えた商店街もあり、生活に必要なものが小さく集まっていたエリアです。


140年程の間、小学校もありましたが、近年の統廃合により閉校となりました。現在は、日当たりと見晴らしが良い場所に、誰もいない学校が佇むのみ。


この集落とは、当店がある今西地区です。




文化的景観を学ぶ研究室に属し、京都の限界集落を調査し提案してきた鈴木さんは、祖父母の住む能勢町を卒業設計の対象に選び、昨夏、能勢町中を自転車で巡りました。



「集落が縮小しつつある中で、

建築としては何ができるか」



祖父や叔父の知人を辿り、今西地区を調査するうちに、「いろんな人に話を聴けて、この場所に素直に魅力を感じられました」との嬉しい理由等もあり、最大の理由は問題提起に挙げられている「地域と小学校との心理的距離」であるとして、この地区に決定されました。



「地域と小学校の物理的な距離が離れたのと同時に心理的距離がどんどん離れていくことが果たして地域にとって良いことなのだろうかという興味があって、この場所を選びました」



鈴木さんは、22年前の日本を震撼させた事件、児童8人が犠牲となった池田附属小学校の近くで生まれ、「閉ざされた小学校」を当たり前として受け止めて育ちました。ところが、建築を学び始めるとすぐに、「住んでいる人にとって一番の身近な公共の建物が閉ざされている」ことに疑問を抱くようになったと言います。


学校が閉ざされた事件は、当時の建築家にとって大きな転換点となり、今でも「池田市出身」と建築家に伝えれば「ああ、あの事件の」と返ってくるそうです。






子どもも大人も
一緒に学んで
一緒に暮らす
閉ざされていない学校




そんなベースを持つ

鈴木さんの提案内容は、


「新しい学校」


ジャンルでいうと、

オルタナティブスクール。


「自分が学びたいことを学びたいかたちで自由に選べる、多様な学びが可能な社会になれば」という希望が込められています。


けれどもそれは、昔の学びのかたちの現代版でもあるとのこと。現在の学校制度ができる前は、「みんなで協力して学び合っていた」時代だったからと。



「そういうことを考えたときに、敷地境界線内に箱のように建てた学校ではなくて、スキルのある人が教え、スキルのある場所で学び、子どもも、大人も、一緒に学んで一緒に暮らしていくことが、これからの学校として良いのではと思いました」



実際のところは法規に反するけれども、敷地境界線を敢えて無くし、地区内の特色ごとにテーマを設け、そこに住む人が持つ能力や技術を活かす学校。


「学び」は、どこででも、どんな人からも可能だと言わんばかりの新しい学校「里山まるごと学校」が模型として出来上がっていました。


従来の住まいも暮らしも変えない配慮と、高齢者の独居や農林業の担い手不足といった諸問題を解決できればという願いも強く感じられ、非常に好感が持てる内容です。




簡単に説明すると、

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学びのベース

寺院、神社、公民館、就労支援施設の一帯は、皆が最初に集まる拠点。図書館もある。


創造する学び

偶然にもクリエイターが住むエリア。ここには仕事と学びが両立する。


農に寄り添う学び

家庭菜園が目立ち、休耕田もあるエリアは農業移住体験の場に。地元の人と移住者が、ほどよい距離感で生活を共有し、助け合う。


森を駆け抜ける学び

手つかずの山には、子どもたち自身が農や自然から得た素材を用いて「学校」(拠点)の建物を作る。建築も学びの一つとして考えられている。

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学内外の賞を受賞!
地域の調査から始まった
新しい建築が伝える
明るい未来




今回の建築物は、空き地、かつての店舗スペース、休耕田への新設と修復をするのみ。


すべて「共有スペース」に充てられています。


同じデザインの屋根にすることで、「里山まるごと学校」に属しているという気持ちを共有する効果も持たせています。




いま、建築家は、建築物だけを見てはいけない。数年前には考えられなかったが、建築をするにあたり最初におこなうことは、地域をフィールドワーク(調査)することになっているそうです。そのため、大学では、調査法や提案法も教えているのだとか。


建築物のまわりにある地域の特色と歴史、昔の生活と現代の生活。美味しい食べ物はあるか。土地や人の魅力は何か。何を感じ、何に困っているのか。そして、建築物を通して建築家は社会に対して何ができるのだろうか。


今回の提案からは、これらの教えを随所に感じられました。


「かつての神社の境内は、子どもやママ友の遊び場だった」「一人住まいの高齢者がいる」「植生豊かな山がある」「年に一度しか使わないけれど必要だから高価な農機具を買っている」等々、私たちの声、これまでの生活、消費者ではなく必要なものは自ら創り出す生活者としての暮らしが、無視されることなく、すべてが活かされているといっても過言ではなかったと思います。


鈴木さんは、「建築については、建てては壊すことに興味がない」と言い切っていました。


まさに新世代の建築家といえる一人です。



『里山まるごと学校-集落を横断した分散型スクールと暮らしの拠点の提案-』は、学内では優秀賞、学外では注目の若手建築家による個人賞も受賞。


報告会の内容を聴いて、素人ながら、受賞を納得しました。




とはいえ、これは、あくまで架空の設計。


けれども、質疑応答の時間には、現実化するための最初の一歩についても教えてもらいました。


昨年、約90年前に始まった今西商店街は、解散。

そんな中での提案に、明るい未来を知ることができました。


卒業設計に今西地区を選んでくれて、

本当にありがとうございました、と伝えたいです。




報告会を聴きに来られた方は、今西地区の新旧の方々、能勢町の新旧の方々、里山や建築に興味を持つ方、さらには建築家も、猪名川町、川西市、大阪市、西宮市から。そして親族の皆様。


約30名が当店に入りました。

入るもんですね。


お越し下さった方々からいただく感想は、

「良い提案」「良い会だった」

「ワクワクしました」

「うちの建築事務所に来てほしい」。

好評価ばかりを耳にしました。


報告会終了後も

質疑応答は続き、白熱。



今日をきっかけに、

何かがスタートするかもれしれない、

そう感じさせる

希望と興奮に満ちている店内になっていました。


四季の企画室 野の 福田商店

. 季節を知り、季節に寄り添い 自然を細やかに感じ楽しめば 発見がたくさん 感動もたくさん すると 気持ちが満たされ 心おだやかに、すこやかに